検査のスペシャリスト


― 生理部門で働く臨床検査技師 ―

小野澤 裕也


私は麻布大学に着任する前は、23年間北里大学病院の臨床検査部に所属し、臨床検査技師として勤務していました。

北里大学病院は麻布大学と同じ神奈川県相模原市にある大学病院で、外来患者数は多い日は3500人を超え、病床も1000以上ある巨大病院です。大学病院という特性から診断や治療が難しい症例や、希少疾患なども多く経験しました。また、三次救急病院ですので、緊急を要する超急性期の重篤な症例を迅速に診断することが求められる特徴がありました。

私は23年間継続して、神経生理学検査を専門に担当していました。生理検査というと超音波検査や心電図検査などが有名で患者数もとても多く、北里大学病院ですと最大、神経生理学検査はあまり馴染みのない検査かもしれませんが、脳波検査や筋電図検査などの脳や神経を検査対象とする検査です。

その中でも最も一般的な脳波検査は、頭皮上に20本以上の電極を装着し、脳の電気活動を波形として表す検査です。てんかんや脳炎の診断や、脳血管障害や外傷による脳機能の評価などに加え、新生児や小児の発達の評価なども行います。

 脳波は一見ミミズのような波形の連続で、電極装着よりも判読の方がとても難しく、判読ができるようになるには数年かかってしまいます。しかし、その波形一つ一つを精密に判読できるようになると、蘇生室や救命センターなどでリアルタイムに脳機能を評価し治療方針を示すことが可能ですし、患者さんが困っている神経症状の原因にたどり着けることも多くあります。

実際に臨床検査技師の国家試験に合格したから、検査ができるわけではありません。臨床検査技師として働くということは目の前に患者さんがいるわけですから、失敗や見逃しは許されず、ライセンス取得後も大学時代の勉強とはまったく種類の異なる勉強の連続です。しかし、自分自身が一生懸命勉強して得た知識や技術が直接的に患者さんの医療へ貢献できるということはとても幸せなことで、私はまったく勉強が苦になりませんでした。長い年月症状が改善せずに困っていた患者さんを自身の知識と技術で検査診断し、治療により軽快していく姿を見ることや、生死を彷徨うほどの重症だった患者さんを担当し、自分自身の検査結果を元に治療方針が決定され、最後は自分の足で歩いて退院される姿を見るようなことも日常的にありました。そのような経験が勉強を続けていく上でとてもモチベーション維持に繋がっていたと思います。


神経生理検査だけでなく、検査全般に言えることですが、新人の頃から検査結果はあいまいなものではなく、最終診断に結びつけるものではならないと指導されていました。大学病院の臨床検査技師はジェネラリスト(多くの検査を幅広く担当できる検査技師)より、スペシャリスト(担当できる検査の範囲は狭いが、その分野の技術に極めて長けている)が多いのが特徴で、私自身も学生の頃からスペシャリストになることを希望していて、就職活動も大学病院に絞って活動していたこともあり、望んでいた環境で働くことができました。その大学病院での勤務経験を学生に伝えながら、将来臨床検査技師として活躍し、豊かな人生を歩んでもらえるよう教育していきたいと考えております。

新生児の正常脳波

成人と比べ、不規則でゆったりとした波形が連続している。

成人の正常脳波

アルファ波(α波)と呼ばれる規則的な律動波が連続している。

脳波は新生児期から変化し続ける特徴があり、おおよそ20歳で完成する。

若年性ミオクロニーてんかんの異常脳波

カメラのフラッシュのような眩しい光で刺激(閃光刺激:PS)したことにより、

多棘徐波複合とよばれるてんかん性の異常脳波(赤点線部)が誘発されている。


― 病理部門で働く臨床検査技師

小山 雄一


病院の中で最も重要な役割のひとつを担っているのが病理部門です。病理部門では、病理医と呼ばれる医師と臨床検査技師が密に連携して業務を行います。病理医が行う病理診断は、患者さんの治療方針に大きな影響を与える極めて重要な行為です。

その病理診断を支えているのが私たち臨床検査技師です。私は、大学病院の病理部門で臨床検査技師として9年間勤務しました。自身の経験も踏まえて、病院の病理部門の臨床検査技師がどのような仕事をするのか、病理部門の業務を「病理組織診断」、「細胞診」、「病理解剖」の3つに分けて紹介します。


① 病理組織診断とは

手術などで採取した患者さんの臓器や組織片から作製した「組織標本」を病理医が顕微鏡で観察して行う診断のことです。

この「組織標本」は臨床検査技師が作製します。組織標本作製の工程は手作業が多く、高度な技術が要求されるため、臨床検査技師の腕の見せ所でもあります。

② 細胞診とは

患者さんから採取した細胞を顕微鏡で観察して行う診断のことです。「細胞検査士」という専門資格を持った臨床検査技師が細胞の良悪の判定などを行い、その結果に基づいて病理医が最終診断を行います。癌の早期の発見・治療につながる重要な仕事です。


③ 病理解剖とは

病気で亡くなった患者さんのご遺体を解剖することです。死因や治療の効果を検証するために、病理医および臨床検査技師によって行われます。病理解剖によって得られた情報は大変貴重であり、医学の発展の糧となります。

以上のような業務を正確かつ迅速に行うためには、経験に基づいた知識と技術が必要です。麻布大学の臨床検査技術学科には、現場で活躍できる人材の育成に焦点を当てており、国家資格取得に向けての勉強だけでは得られない知識や技術を習得できる教育体制があります。

この体制を生かして、私は臨床検査の現場で実際に経験して得た事を学生さんに伝えていきます。是非、麻布大学で臨床検査技師を目指し、一緒に未来の社会を支えていきましょう。将来、皆さんと麻布大学で会えるのを楽しみにしています。